(イタリア講師のコメント 3)完璧なクローンは・・・
引き続き、8月末に県内のワイン用ぶどう園を見ていただいた、マッテオ・モンキエーロ教授の言葉を紹介します。
コメント3 「完璧なクローンは存在しない」
ある畑で生産者と、この品種はどのクローンがよくてどれがもうひとつ、というやりとりをした後、教授がアドバイスされた言葉です。続けて教授は、「いくつかのクローンを持ち、全体で欠点を補い、長所を高めることがよい」ともアドバイスされました。
この言葉に私はとても衝撃を受けました。なぜなら、理想のクローンを追求していくことが、ワイン用ぶどうの経営を安定させると考えていたからです。長野県では栽培面積を増やすにも限度があり、よいクローンを選びそれを栽培することが、毎年ぶどうの品質を安定させる第一歩だと考えていたからです。私の発想は、農業経営では「単作」すなわち一つの作物を栽培する形態に近いでしょう。単作経営は気象が順調で、安定した市場があり、経営者が健康な場合は、強さを発揮します。
しかし単作経営は、気象・市場・健康のどれかが損なわれたら、とたんに弱くなります。環境変化に対応するのが難しい形態とも言えるでしょう。一方で教授のアドバイスは、農業経営では「複合化」、「分散化」すなわち複数の品目・品種を栽培する発想に近いと思います。その年の環境に合わないものがあるかもしれないが、合うものもあり、トータルでは一定の成果が得られる、という形態です。私は、ワイン用ぶどうでは複数品種を栽培することは必要と考えていましたが、同じ品種内でクローンで複合化・分散化を図るという教授の発想にまでは至りませんでした。恥ずかしい限りです。
これらの教授の言葉を、どう捉えるのか、色々な考えがあると思います。経営面から、栽培の実際場面から、醸造の立場から、それぞれ賛同の意見も違う見方もあるかもしれません。機会があれば、皆さんのご意見を伺ってみたいです。
(追伸)この記事を書きながら、あることを思い出しました。3年ほど前にソムリエ資格を持つ方から、「長野県は、単一品種でのワインに固執しすぎではないか?ボルドーのように、毎年一定のワイン品質を担保するために、ブレンドしていくことを、産地として真剣に考えていくことも必要では?」と提言されたことがあります。その後、一般消費者の意識がやっと品種に向いてきたので、単一品種で押すのはやむを得ないが、徐々にブレンドの比率が高まっていくのでは、との結論になりました。
既に個々ではブレンドは進みつつありますが、クローンの問題と併せて、将来的に産地全体としてどう考えていくか、教授から改めて宿題をいただいた思いがします。